横綱になる条件は?
横綱は、大相撲において最高位の称号であり、全ての力士が目指す究極の地位です。しかし、横綱になるためには厳しい条件が課されており、単に強いだけでは昇進できません。本記事では、横綱になるための条件や基準、そしてその背景について詳しく解説します。
1. 横綱昇進の基本条件
横綱になるためには、大関として安定した成績を残し、品格と実力を兼ね備えた存在であることが求められます。昇進の条件として、主に以下のポイントが重要視されます。
(1) 大関として2場所連続優勝、またはそれに準じる成績
横綱昇進の最も明確な条件は、大関の地位で2場所連続優勝することです。これは、横綱にふさわしい安定した実力を証明するための基準となっています。
ただし、2場所連続優勝に満たない場合でも、
- 1回の優勝+準優勝(13勝以上)
- 2場所連続で優勝争いに絡む成績(14勝-1敗、13勝-2敗など)
といった実績がある場合、昇進が検討されることがあります。過去には、大関時代に2場所連続で優勝しなくても横綱に昇進した例もあります。
(2) 横綱審議委員会の承認
横綱昇進は、単なる勝敗の結果だけでなく、横綱としての品格や相撲内容が評価されることも重要です。
横綱昇進は、日本相撲協会の「横綱審議委員会」が最終的に判断します。具体的には、
- 取組内容が堂々としているか
- 相撲の勝ち方が圧倒的か
- 土俵態度に問題がないか
などが審議され、問題がなければ正式に昇進が決定します。
2. 「品格」が求められる理由
横綱は単なる「最強の力士」ではなく、相撲界の顔としての人格や態度も問われます。そのため、品格が欠けると判断されると、たとえ成績が良くても昇進が見送られることがあります。
(1) 勝ち方の美しさ
横綱に求められるのは「強さ」だけでなく、「堂々とした勝ち方」です。例えば、
- 土俵際での姑息な技(引き技や変化技)が多いと評価が下がる
- 勝負を決める場面で消極的な相撲を取ると印象が悪くなる
このため、力強い押し相撲や、堂々とした寄り切り・上手投げなどの技が評価されやすくなります。
(2) 土俵態度の重要性
横綱は相撲界の象徴であり、土俵内外での態度も厳しく見られます。例えば、
- 勝負に負けた際の態度が悪い
- 土俵上での所作が乱れている
- 力士としての品位を損なう発言をする
こうした問題があると、横綱昇進が難しくなります。
実際、過去には成績が十分だったにも関わらず、土俵態度や品格が理由で昇進が見送られた例もあります。
3. 横綱昇進の歴史と特例
歴史的に見ると、横綱昇進には例外的なケースも存在します。
(1) 2場所連続優勝なしで昇進した例
過去には、2場所連続優勝なしで昇進した横綱もいます。例えば、
- 稀勢の里(第72代横綱)
- 2017年1月場所で優勝
- その前の場所は準優勝(12勝3敗)
- 横綱審議委員会で「一貫して安定した成績を残している」と評価され昇進
このように、横綱としての品格と実力が認められれば、厳密に2場所連続優勝の条件を満たさなくても昇進することがあるのです。
(2) 特別な実績で昇進した例
かつての横綱には、昇進基準がまだ明確でなかった時代の力士もいます。
- 双葉山(第35代横綱)
- 69連勝という伝説的な記録を残し、文句なしの昇進
- 千代の富士(第58代横綱)
- 筋肉質な体格と圧倒的な勝ち星で「横綱相撲」の象徴的存在
こうした力士は、成績だけでなく相撲界全体の影響力も考慮され、横綱に昇進しています。
4. 横綱になった後の責任
横綱になると、引退までその地位を守らなければなりません。大関以下とは違い、成績が振るわなくても降格はなく、不成績が続けば「引退」という形になります。
(1) 引退の基準
- 成績が悪化し、横綱としての相撲を取れなくなった場合
- ケガなどで長期休場し、復帰が見込めない場合
横綱は特別な存在であるため、一般の力士のように「陥落」という制度はなく、引退という厳しい道を選ばなければならないのです。
(2) 引退後の影響力
横綱は、引退後も相撲界に影響を与える存在として、親方(年寄)となり後進の指導に当たるケースが多いです。
- 指導者としての役割
- 相撲文化の継承者
こうした点も、横綱に求められる「品格」として重要視される要素の一つとなっています。
日本人の横綱が誕生しにくい理由は?
かつては多くの日本人横綱が活躍していましたが、近年では外国出身の力士が横綱に昇進するケースが増え、日本人横綱の誕生が少なくなっています。特に、平成時代以降はモンゴル勢を中心とした外国人力士が相撲界を席巻し、日本人力士が横綱に昇進するのは稀なケースとなっています。なぜ日本人の横綱が誕生しにくくなっているのでしょうか?その理由を詳しく解説します。
1. 外国人力士の活躍が目立つ
現在の相撲界では、モンゴルや東欧出身の力士が活躍しており、特に横綱の地位を占めることが多くなっています。その背景には、体格や闘争心、環境の違いなどが影響しています。
(1) 体格とフィジカルの優位性
外国人力士、特にモンゴル出身の力士は、相撲に適した体格を持っていることが多く、特に以下の特徴が日本人力士と比較した際の強みとなっています。
- 骨格が大きく、筋肉がつきやすい
- 柔軟性があり、四股を踏む動作に適している
- 体のバランスが良く、押し相撲でも四つ相撲でも強い
また、子どもの頃からモンゴル相撲やレスリングなどの格闘技に親しんでいることが多く、基礎的な体の使い方を身につけた状態で角界入りしているケースが多いです。
(2) 闘争心とハングリー精神
外国出身の力士は、日本の相撲界で成功することを強いモチベーションとし、貧しい環境から這い上がろうとする強い意志を持っていることが多いです。
- 母国での生活環境が厳しく、相撲で成功しなければならない
- 異国での挑戦のため、誰よりも努力を惜しまない
- 勝負に対する貪欲さが日本人力士よりも強いケースが多い
このような強い意志が、横綱になるための条件である「2場所連続優勝」という厳しい基準を乗り越える要因となっています。
2. 日本の若手力士の育成環境
一方で、日本人力士が横綱になりにくい要因として、育成環境の変化も大きな影響を与えています。
(1) 相撲人口の減少
日本国内では、相撲を始める子どもの数が減少しており、相撲の裾野が狭くなっています。
- 少子化の影響で相撲を志す子どもが減少
- 学校教育の中で相撲が取り入れられる機会が少ない
- 柔道やサッカー、野球など他のスポーツの人気が高い
これにより、かつてのように相撲のエリートが次々に誕生する環境ではなくなっています。
(2) 厳しい稽古環境の変化
日本の相撲部屋では、近年パワハラや暴力問題への対応が厳格化され、かつてのような厳しい稽古環境が少なくなっています。
- 昔のようなスパルタ式の指導が難しくなった
- 体力的・精神的に追い込む稽古が減少
- 「人権を重視する指導」への転換
これにより、日本人力士の精神的な強さや耐久力が育ちにくくなり、外国人力士のような「ハングリー精神」に欠けるという意見もあります。
3. 日本人力士の相撲スタイル
日本人力士は、伝統的に「美しい相撲」を重視する傾向がありますが、これが時に不利に働くこともあります。
(1) 勝ち方にこだわる日本人力士
日本の相撲文化では、「品格」や「美しさ」が重視され、
- 正面から堂々と相撲を取る
- 奇襲や変則的な技を使わない
といった考え方が根付いています。これは横綱に求められる「品格」にもつながりますが、勝ちにこだわる外国人力士と比べると、戦略的な柔軟性に欠ける面があります。
(2) 外国人力士の勝負勘
外国人力士は、勝つためならあらゆる手を使うという考え方があり、
- 立ち合いの変化を積極的に使う
- 対戦相手の弱点を突く相撲を徹底する
- 土俵際で粘り強い相撲を取る
といったスタイルが特徴です。この「勝ちにこだわる姿勢」が、日本人力士との差を生んでいるとも言われています。
4. 横綱昇進のプレッシャー
横綱昇進には、2場所連続優勝という厳しい基準があり、日本人力士にとって大きなプレッシャーとなることがあります。
(1) 期待が大きすぎる
- 「日本人横綱が求められている」という重圧
- メディアやファンの期待が過剰にかかる
- 横綱昇進が決まりそうな場所で緊張してしまう
過去の事例として、
- 稀勢の里は何度も昇進のチャンスを逃し、ようやく昇進した
- 大関止まりで終わった日本人力士が多い(貴景勝、琴奨菊など)
といったケースがあり、外国人力士よりも精神的な負担が大きいことが課題となっています。
まとめ
日本人横綱が誕生しにくい理由は、
- 外国人力士のフィジカルの強さとハングリー精神
- 日本の相撲人口の減少と育成環境の変化
- 日本人力士の相撲スタイルが慎重すぎる
- 横綱昇進のプレッシャーが大きい
といった要因が関係しています。
しかし、日本人力士が横綱になれないわけではありません。稽古の質の向上、精神的な強化、柔軟な相撲スタイルの導入などを進めることで、日本人横綱の誕生が期待されます。今後、次の日本人横綱が誕生するのか、注目が集まります。
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